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海外のシーシャ事情~その1~

2020/1/6

 

最近、シーシャのスモークトリックを披露するyoutuber(ユーチューバー)たちが話題を集めているのをご存知でしょうか。スモークトリックとは吸い込んだ煙を口に中に含み、吐き出す煙で輪っかなどを作る技のことです。

 

タバコのスモークトリックは昔からいろいろありましたが、煙の量が多く刺激の低いシーシャは特にスモークトリック向きのツールで、日本のシーシャ・バーなどで披露する愛煙家も増えています。

 

近年日本でも認知度が上がりつつある喫煙ツール、シーシャは世界各国でどのように親しまれているのか、ドバイ、イラン、トルコ、イスラエル、レバノンを中心に中東のシーシャ事情についてご紹介します。

 

シーシャの歴史

 

 

水タバコ・シーシャはインドからペルシャ地域に起源を持つ喫煙方法です。パイプとたばこで財を成したイギリスの実業家アルフレッド・ダンヒルの著書『パイプの本』では、水タバコについてこう書かれています。

 

「水がめの中を通して煙を吸うことで、煙草パイプの煙を冷やし、きれいにするという方法は、アメリカでも見られなかったし、またヨーロッパ人の間にも見られない習慣である。しかし、東洋では普通に行われていたし、ダッカパイプの発見されたアフリカなどでもやはり行われていた」

――アルフレッド・ダンヒル『パイプの本』 梅田晴夫訳

 

一般的にタバコは北米に暮らしていたインディアンが嗜んでいたものが、コロンブスのアメリカ大陸発見以降にヨーロッパへ伝わり、大航海時代を経て世界各地へ広まっていった、とされているのですが、麻の葉などを燃やして吸う喫煙習慣そのものは、アジアやアフリカでは日常の営みとして行われていたようです。

 

タバコ葉の煙を水にくぐらせて吸う喫煙法は、およそ400年前、インドでココナッツの実にストローを刺し、ココナッツジュースで煙を冷やして吸う方法から始まりました。それがヤシの木がない中東地域へ広まるにつれ、いつでも使える陶器やガラスの器が使われるようになり、主にペルシャで現在のシーシャの形が確立したと言われています。

 

 

中東のシーシャ事情

 

 

シーシャの本場はなんといっても海外です。特にイランやドバイなどの中東諸国、そしてインドやエジプトなどでは喫茶店で気軽にシーシャが楽しめる店がたくさんあります。バザールの隅で一服する人たちを見かけることも日常的な光景です。

 

ドバイ

 

 

中東屈指の観光地、ドバイ。アラブ首長国連邦最大の都市ですが、シーシャが最もポピュラーに楽しめる街と言っても良いかもしれません。ドバイではデザート感覚でシーシャが親しまれており、テラスのあるカフェの前を通ると、ふと甘い香りが漂っていることも珍しくありません。

 

ドバイにあるカフェやレストランにはアラブ料理の店でもモロッコ料理の店でも、たいていシーシャがメニューにあります。フレーバーはアップルやメロン、ストロベリーなどのフルーツ系が人気で、煙管を氷で冷やしながら吸うタイプのシーシャまであるなど、ほとんど日本のかき氷を思わせる感覚です。値段は日本円で500円~1,500円ほどが相場になります。

 

ドバイを本拠地に持つエミレーツ航空は、世界の航空機が禁煙化に舵を切るなか、2013年から一部の搭乗機でシーシャの提供サービスをはじめました。搭乗費が100万円を下らない長距離エアラインを飛ぶA380のファースト・ビジネスクラスのみの提供ですが、機内に設えられた専用ラウンジエリアでシーシャを楽しむことができます。

 

ドバイ土産で人気があるのもやはりシーシャです。ドバイにはシーシャ専用パイプのメーカーであるMYA(ミヤ)があり、パフュームの瓶を思わせるフラスコとカラフルなパイプが可愛らしいデザインで、インテリアのお土産としても人気があります。

 

イラン

 

 

現在のシーシャの形ができあがったイランでは、シーシャは住民の生活に根付いた文化のひとつになっています。カフェやレストランでシーシャを出す店もありますが、シーシャがメインの専門店も多く、店の前でゆったり煙をふかす人々の姿を多く見かけます。

 

男性も女性もシーシャを楽しんでおり、「トゥートゥーン」といわれる紙巻タバコより、「タンバークー」というシーシャのタバコ葉ほうがメジャーな印象さえあります。目の覚めるような美女がシーシャの煙で遊ぶ姿は異国情緒にあふれ、『アラビアンナイト』の世界そのものです。

 

シーシャ一服の価格は1回10万リアルほど。経済制裁下のイランは為替相場の変動が激しく、2019年現在、10万リアルが80円~130円ほどに当たります。

 

酒が禁じられているイスラム圏のイランですが、ペルシャ時代からたびたび嗜好品のタバコまで禁じる法律や運動が巻き起こっていました。最初に水タバコを禁じたのは17世紀前半のサファヴィー朝末期に即位したサフィー1世(在位1628~1642年)で、支配地域すべてにタバコを禁じるおふれを出しました。

 

ある街で金持ちがふたり、シーシャを吸った罪で王の前に召し出されると、王はその罪人の咽喉に溶けた鉛を流し込んで殺してしまったと言います。ちなみにサフィー1世は朝令暮改の愚帝としても知られ、このタバコに関する罪もいつしかうやむやになって消えてしまいました。

 

さらに19世紀末の1896年、カージャール朝の王がイギリス人実業家にタバコの専売権を売り渡したとき、イランの法学者やタバコ商人が大規模なボイコット運動を行い、タバコの専売権を取り戻すという騒ぎが起こりました。

 

当時のイランではタバコ農家や商人など、タバコ産業に従事する人の数は20万人以上いたといわれ、多くの国民にとって死活問題だったのです。このタバコ・ボイコット運動で多額の違約金を払わされたカージャール朝はその後衰退し、王の暗殺、立憲主義への変遷を辿ることになります。

 

このようにイランでは民衆がタバコを守ってきた長い歴史があるせいで、世界でも類を見ないほどタバコに関する理解が寛容な地域です。

 

トルコ

 

 

オスマン・トルコ帝国がペルシャを支配した17世紀中ごろ、トルコでシーシャが嗜まれるようになりました。パイプが今あるシーシャの形に改良したのはオスマン・トルコ帝国時代のことという説もあり、タバコ文化は長い間、国民の楽しみのひとつでもありました。

 

しかし2009年、公共の場での喫煙が禁止される法令が出たのち、2013年にはレストランやカフェなど公共の場でのシーシャ提供も禁止されることになりました。もう観光客がトルコでシーシャを楽しむには、シーシャの道具をそろえて喫煙OKのホテルの室内で吸うか、トルコ人と仲良くなってシーシャを吸わせてもらうしかありません。

 

トルコ政府がタバコやシーシャを強く禁じたのは、WHO(世界保健機構)の強い勧告に応じたためです。もともとトルコは成人の5割以上に喫煙の経験があり、その割合は世界で2位でした。未成年者の喫煙率も高く、タバコ由来の病気も多いと言われ、禁煙化をすすめて国民の健康を促進するねらいがありました。

 

たばこ税も大幅に引き上げられ、マルボロ1箱が10トルコリラ(約190円)する中、タバコ税はタバコ代の9割を占めています。国内のたばこ作付け面積はここ10年で50%減少し、禁煙先進国としてその成果を欧米に誇っています。誇っていますが、パイプスモーカーには強い憧れがあるメシャムパイプがトルコでのみ生産されているいま、長い歴史と伝統を持つトルコの喫煙文化がすたれつつあるのは寂しい話です。

 

では公共の場でシーシャが禁じられて、人々はどこでシーシャを吸っているのかといえば、みんな道端で吸っています。水清ければ魚棲まず、強すぎる禁則はかえって意味をなさないものです。

 

イスラエル、レバノンなど、その他中東地域

 

 

イスラエルのシーシャ屋は、主にムスリム地区にあります。特に岩のドームがあるエルサレム旧市街のスーク(城塞都市)にはシーシャパイプを専門に売る店や、カフェでシーシャが吸える店などがたくさんあります。輸入依存度の高いイスラエルは総じて物価が高く、コーラ缶1本が7シュケル(約210円)、マルボロ1箱が35シュケル(約1,000円)、シーシャ一服が30シュケル(約900円)ほどの価格です。

 

ユダヤ人地区にもシーシャ屋はあり、ウルトラオーソドックスと呼ばれる敬虔なユダヤ教保守派の恰好をした人でも、昼間からシーシャをぷかぷか吹かしています。宗教・民族の対立が激しいイスラエルですが、町場では互いの文化を親しむ光景を見かけることは珍しくありません。

 

レバノンの首都ベイルートは、「禁煙」という概念がないスモーカーの天国と言われるほど、タバコがどこでも吸えます。シーシャの店も多く、街のレストランやリゾートホテルのプール、川沿いのオープンカフェなど、老若男女がどこでもシーシャを楽しむ姿を目にすることができます。シーシャの値段は一服15,000レバノンポンド(約1000円)ほどで、他の嗜好品に比べて高めの価格です。

 

他にもヨルダンやサウジアラビアなど、シーシャが吸える中東の国はまだまだあります。

 

内戦に揺れる紛争国のシリアはタバコ葉の生産がさかんな地域でした。燻煙したパイプ葉の一種である「ラタキア」がシリアの港湾都市の名前からつけられたように、シリアは豊かなタバコ産業がありました。

 

 

まとめ

 

 

これらシーシャの文化が深く根差した地域では、シーシャが社交上の重要なコミュニケーションツールになっています。1つのシーシャを2~3人の仲間で囲い、隣の席の人に味見をさせてもらいながら談笑するのです。特にお酒が飲めないイスラム圏の人々にとって、シーシャは重要な嗜好品として大切にされています。

 

 

 

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